遠く知らない街の夢のような甘美な世界~リチャード・ブローディガンさんの『西瓜糖の日々』

『西瓜糖の日々』の本の表紙の写真。モーテルの入口でしょうか、部屋のドアが2つ、それぞれのドアの前の天井には電灯がついています。それぞれのドアの上には「900」と「900 1/2」という文字が書かれています

リチャード・ブローディガンさんの『西瓜糖の日々』。
この本は特に好きで、まわりに『西瓜糖の日々』が好きな人がいて、買ってはあげて、また買ってはあげての本です。
いま手元に単行本が1冊あって、今日はあいまに読もうかなと思ってお店に持ってきました。文庫本も持っているはずなのですが、どこにしまったかわからなくなっています。

「アイデス」(iDEATH)という西瓜糖で作られた穏やかなときが流れる世界に住んでいる人たちと、「アイデス」とその先の「忘れられた世界」との境界に住む人たち。
「アイデス」は、人と人のふれあいやささやかなときを楽しみ、過去の思い出がゆるやかに語られる穏やかなときが流れる世界。「忘れられた世界」は、どんな世界かは具体的には語られていませんが、忘れられた美しい「モノ」とか変わった「モノ」が見つかる可能性ある世界として語られています。
その2つの世界に住む人たちはお互いをこころよくは感じていなくて争いや凄惨なシーンもあったりするのですが、西瓜糖の世界の穏やかな描写にあたたかい気持ちになります。遠く知らない街の夢のような甘美な世界の感じがして心地よく、その世界に憧れをいだいてしまうほどです。

わたしは小屋に入ると、六インチのマッチでランタンに灯をつけた。西瓜鱒油は美しい光を放って燃えた。すばらしい油だ。
西瓜糖と鱒からとれる液を、ある特別な草の葉といっしょに混ぜると、やがて、わたしたちがこの世を照らすために用いるこのすばらしい油になるのだ。
わたしは眠かったが、眠りたくなかった。眠くなればなるほど、眠りたくなかった。服を着たまま、長いことベッドに横になっていた。ランタンの明りをそのままにして、部屋に映る影たちを凝視していた。
[リチャード・ブローディガン、『西瓜糖の日々』より]

小川洋子さんと平松洋子さんも『西瓜糖の日々』をオマージュしていて、しばらく前の『Coyote』の雑誌には、『西瓜糖の日々』からインスパイアされる小川さんと平松さんの物語が載っています。

何度も読みかえした本ですが、この前お店の来たお客さんとブローディガンの話しをしたこともあり、また読み始めています。


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