アンソニー・ドーアさんの『すべての見えない光』
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アンソニー・ドーアさんの『すべての見えない光』。
戦時中、目の見えない女の子と、男の子の主人公が、過去と現在という時間をまたぎながら話しがすすむ温かな物語です。手ざわりや周りの状況を音でたどる女の子が感じる世界の繊細な描写に「世界がこんなにも豊かななんだ」と感動を覚えます。
目の見えない少女ののことを書いてあるくだりを引用します。
ジェファール博士の机の上に置いてあるアクキガイを使い、彼女は三十分ほど遊ぶ。空洞になった突起、硬い渦巻き、深い開口部、とげと洞穴と手ざわりの森がある。そこには、ひとつの王国がある。
[アンソニー・ドーア、『すべての見えない光』より]
目の見えない人たちは、取り巻く世界のこれらの仔細な情報を視覚以外で受け取りながら行動しているのだ、という想像を高めながら読んでいます。そして、目の見えない少女を見守る父の姿が悲壮的ではなく、逆に世界がこんなにも豊かであることを描きだしています。
そして、同時進行で語られるもう1人の主人公の男の子の話し。ごみの山から壊れたラジオを見つけ直して、音が鳴るくだりがあります。
泡立つような雑音が聞こえる。それから、イヤホンのどこか奥深くから、子音が次々に流れ出てくる。ヴェルナーの心臓が止まる。その声は、頭蓋骨のなかで反響しているようだ。(中略)そして、四つの端子と垂れたアンテナのある小さなラジオは、彼らすべてのあいだの床に、奇跡のように置かれている。(中略)バイオリン、ホルン、ドラム、演説 ー どこか遠くの、同じ夜の瞬間に、マイクに向かっている唇。その魔法にうっとりとなる。
[アンソニー・ドーア、『すべての見えない光』より]
音から想像され喚起されるイメージは、目にしている光景にとらわれることなく自由で豊かだと思います。
ラジオの魔法的な魅力については、二階堂奥歯さんの『八本脚の蝶』にも書かれています。
初めてトランジスタラジオを持ったとき、神秘的な音の箱が手の中にあるような気がした。実際に聞こえるのは歌謡曲やDJのおしゃべりであっても、可能的にはその箱が受け取るのは遠く見果てぬどこかからの呼びかけなのだ。
その頃ラジオは、今私の目に見えるものとは違って見えた。もっと科学は魔法と未知の世界の気配をただよわせていた。
[二階堂奥歯、『八本脚の蝶』より]
かくゆう私も鉱石ラジオの魅力にとりつかれていたことがあります。
『すべての見えない光』の主人公の女の子は、父親からプレゼントとされた点字のジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』を読み、ジュール・ヴェルヌの主人公たちが街中を歩きおしゃべりをする姿を夢想する少女です。映画の『バックトゥザフューチャー』に出てくるクララを彷彿させ、想像する、夢想する楽しみに共感します。
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