スティーヴン・ミルハウザーさんの『ナイフ投げ師』~幻想と現実
スティーヴン・ミルハウザーさんの本。
6冊オンラインストアやお店に出していたのですが、3冊旅立っています。
ミルハウザーさんの本で一番好きなのが、『ナイフ投げ師』です。
期待を満たすようなサービスや幻想を充足するようなサービスが今の時代でもありますが、さらに進むとそれがもっと突きつめられたものとして提供され、そのサービスが幻想なのか現実なのかわからない時代が来るかもしれないと、この小説を読むと感じます。
表題である「ナイフ投げ師」の短編は、観客はそのナイフ投げに称賛をおぼえるものの、失敗しないことへの失望も一瞬感じてしまうほど巧みな芸になり、さらには行き過ぎではないかと思う芸になります。トリックやいかさまというエンターテインメントのもとでは安心安全に見ていられますが、行きすぎると何をしてもいいことになり、その安心安全もおびやかされるのではないかと、観客である主人公は空恐ろしさを感じます。
ナイフ投げの短編だけではなく、デパートでのサービスやアミューズメントパークの短編も描かれていて、安全という囲いの中で提供されるサービスのスリリングさに期待を抱き、そのを期待をつきつめていくことによって幻想とも現実とも区別がつかない危うい一線の存在があるということが示されています。
はじめて読んだのが2008年ですが、何度か読みなおしています。
そしていまふたたび読んでも魅力的な小説で、現実と幻想の世界の境はどこなんだろうと考えてしまいます。
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