堀多恵子さんの『少女との対話』

堀多恵子さんと堀辰雄さんの本が積み重ねられている写真。一番上が堀多恵子さんの『少女との対話』。一番下が堀辰雄さんの『風立ちぬ』です。

堀多恵子さんの『少女との対話』。

朝から強い北風が吹き、時々不気味な風の唸りが聞こえていた。
そんな日の昼下がり、玄関のベルが鳴った。戸を開けて出て見ると、生き生きと輝くような少女が両頬を真っ赤にして立っていた。彼女は門扉が開いていたので、おそるおそる中に入って来て見ると、誰かがいるような気配に、勇気を出してベルを押したのだときちんと説明し、丁寧に挨拶をした。
ヴェランダには火の気はなかったが冬の陽が一杯に射し込み、暖かな場所をつくっていた。私は彼女に中に入ってもらった。一月にもこの寂しい山麓の里を訪ね、わが家のベルを押した人が何人かいたが、風邪気味だった私は誰にも逢わなかった。今年初めてのかわいい来客である。椅子に腰かけた少女はふっくらとした両手で頬を押さえ、少し恥ずかしせかうに笑っていた。寒風を突いて一生懸命歩いて来たのだろう。
[堀多恵子、『少女との対話』より]


堀多恵子さんの文章を読むと、信州の高原の明るさやすがすがしさがありありと伝わってくるかのようで、きびしい冬であってもとても明るいイメージを思い浮かべます。
この「少女との対話」の舞台は軽井沢から西へ2駅の信濃追分、今は堀辰雄文学記念館になっているところです。
この信濃追分や軽井沢あたりは、堀辰雄さんや室生犀星さん、深沢紅子さん、立原道造さんのゆかりの地で、10年越しに憧れているところです。
コロナ前の5、6年間は北陸に行くのに軽井沢を通っていたのですが、軽井沢に停まらない北陸新幹線に乗ってしまっていたので寄れずじまいでした。

軽井沢ゆかりの文人たちの本を再度読み返してみたいと思っています。

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