宮沢賢治さんの『銀河鉄道の夜』の魅力

『銀河鉄道の夜』の本の表紙の写真。太田大八さんの絵で夜空を銀河鉄道が走っている絵が描かれています。

宮沢賢治さんの『銀河鉄道の夜』。
藤城清治さんの絵の『銀河鉄道の夜』が手元にあったのですが、他に持っている『銀河鉄道の夜』をしばらく探していて、そのうちの1冊である太田大八さんの絵の『銀河鉄道の夜』が出てきました。
この本は読みやすいように宮沢賢治さんの文章を新かなづかい、現代表記に改め、一部の漢字をひらがなにしています。

それまで『銀河鉄道の夜』は身に染みてこなくて理解にはいたらず、なんとなくという感じで読んでいました。
何年か前ですが、複数の本屋さんのスタッフさんから『銀河鉄道の夜』が好きということを聞いて、再読してみて、また図書館で宮沢賢治さんの本を借りて読んで、その魅力が少しだけわかってきたような気がしました。

先日紹介した、堀秀道さんの『鉱物 人と文化をめぐる物語』には、宮沢賢治さんの話しが出てきます。

賢治が石好きで、「石っこ賢さん」とも呼ばれ、作品の中にもたくさんの鉱物や岩石を登場させていることを知った。その中のオパールを探す話や『銀河鉄道の夜』の中に出てくる「この砂はみんな水晶だ」という表現など、私の書いた「楽しい鉱物学」 (草思社、一九九〇)に引用させてもらった。
(堀秀道、『鉱物 人と文化をめぐる物語』より)

手近にあった藤城清治さんの絵の『銀河鉄道の夜』の「水晶」のくだりを読みかえしました。

二人は汽車をはなれて、すこし歩いて川原までいってみました。川原の小石はみんなすきとおって、たしかに水晶やオパールのようでした。流れに手をひたすと、手首にぶつかった波は、うつくしい青い光になってもえるようでした。
(宮沢賢治/宮沢賢治、藤城清治/影絵と文、『銀河鉄道の夜』より)

宮沢賢治さんの原文はこうです。

そして間もなく、あの汽車から見えたきれいな河原に来ました。
カムパネルラは、そのきれいな砂を一つまみ、掌にひろげ、指できしきしさせながら、夢のやうに云ってゐるのでした。
「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えてゐる。」
「さうだ。」どこでぼくは、そんなこと習ったらうと思ひながら、ジョバンニもぼんやり答へてゐました。
(宮沢賢治、『銀河鉄道の夜』より)

「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えてゐる。」とは、なんとも美しく不思議な記述です。
水晶の中で火が燃えているとはどういうことでしょうか。宮沢賢治さんの単なる空想の世界の記述ではなく、石をこすりあわせたときに圧電効果によって光が出るそうです。

さらに『銀河鉄道の夜』の続きです。

河原の礫(こいし)は、みんなすきとほって、たしかに水晶や黄玉や、またくしゃくしゃの皺曲(しうきょく)をあらはしたのや、また稜(かど)から霧のやうな青白い光を出す鋼玉やらでした。ジョバンニは、走ってその渚に行って、水に手をひたしました。けれどもあやしいその銀河の水は、水素よりももっとすきとほってゐたのです。それでもたしかに流れてゐたことは、二人の手首の、水にひたったとこが、少し水銀いろに浮いたやうに見え、その手首にぶっつかってできた波は、うつくしい燐光をあげて、ちらちらと燃えるやうに見えたのでもわかりました。
(宮沢賢治、『銀河鉄道の夜』より)

「鋼玉」も知らないとそのまま読み流してしまいますが、鉱物で、青色透明の鉱物がサファイア、紅色透明の鉱物がルビーです。「青白い光を出す」と書かれているのでサファイアかもしれません。

すきとおった銀河の水の波に手をひたし波が手に当たると「うつくしい燐光をあげて、ちらちらと燃える」とは幻想的な風景です。

「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている」というような表現は他にもあります。

ルビーよりも赤くすきとおり リチウムよりもうつくしく 酔ったようになって その火は燃えているのでした
(宮沢賢治、『銀河鉄道の夜』より)

この表現もルビーやリチウムの色がわからないと想像しにくいかもしれません。
リチウムの色がどんな色なのかを載せているサイトがありました。大阪市立科学館のページです。
https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/universe/2017/04/201704_16-17.pdf

他にもいろいろ鉱物が出てきます。

俄かに、車のなかが、ぱっと白く明るくなりました。見ると、もうじつに、金剛石や草の露つゆやあらゆる立派さをあつめたやうな、きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ、その流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。
(宮沢賢治、『銀河鉄道の夜』より)

金剛石はダイヤモンドのことです。

鉱物の名前は宮沢賢治さんの他の本の中にもたくさんでてきますが、鉱物のことを知ると宮沢賢治さんが表現したかったことをより理解できるかもしれません。
持っている鉱物の図鑑を探しだしてそばにおいて読みたいと思います。

2024年8月5日のブログ
大理石と彫刻~堀秀道さんの『鉱物 人と文化をめぐる物語』
https://soleil-lune-tokyo.com/hidemichi_hori_mineral/


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