自動人形の魅力~『イン・ザ・ペニー・アーケード』と「ヒューゴの不思議な発明」

『イン・ザ・ペニー・アーケード』の本の表紙の写真。小箱の中に光や星などの小さな小物がしまわれている写真です。
スティーヴン・ミルハウザーさんの『イン・ザ・ペニー・アーケード』。

ミルハウザーさんの小説は幻想的で一度読むととりこになる魅力を持っています。
先日紹介した『ナイフ投げ師』もそうです。

『イン・ザ・ペニー・アーケード』は短編集で「自動人形」の話しの「アウグスト・エッシェンブルク」から始まります。時計職人を父に持つ少年はみずからも時計職人になりますが、自動人形を作ることにはまり、百貨店のショーウィンドウに飾る自動人形を作り人気を博します。

この小説の中に字を書く「自動人形」が出てくるのですが、思いだしたのが「ヒューゴの不思議な発明」という映画で、この中にも自動で動く「機械人形」が出てきます。
原作はブライアン・セルズニックさんの『ユゴーの不思議な発明』です。

「ヒューゴの不思議な発明」のDVDのジャケットの写真

「機械人形」と「自動人形」は同じでオートマタ(オートマトン)の訳です。

「ヒューゴの不思議な発明」は、駅の大時計の番を密かにしている男の子が主人公の話しで、父親が残した動かない機械人形を大事に持っています。ときを経て動くようになった機械人形がイラストを書いていくというシーンがあります。
この映画の中に出てくる機械人形は主人公の父親が作ったものとされていますが、そのモデルとなったのは17世紀に活躍したジャケ・ドローの人形です。

「アウグスト・エッシェンブルク」にもジャケ・ドローのことが書かれています。

プライゼンダンツはまた、等身大の自動人形の流行をつぶさに追いかけていた。というのも彼は、かつてあまたの展覧会の目玉だったこれらの人形の中に、未曾有の商業的可能性を見出していたのである。彼は自分でも等身大の自動書記人形を一台所有していた。明らかに有名なジャケドロ人形をモデルにしたその人形は、残念ながらもはや動かなくなってしまっていた。
(スティーヴン・ミルハウザー、『イン・ザ・ペニー・アーケード』「アウグスト・エッシェンブルク」より)

「アウグスト・エッシェンブルク」の時代背景は「自動人形」の全盛期から衰退の時代です。
「ヒューゴの不思議な発明」に出てくる「自動人形」は、「自動人形」の全盛期の後の映画の創生期に残されたものです。映画の創生期に活躍した、ジョルジュ・メリエスも登場し、この「ヒューゴの不思議な発明」の鍵となりますが、ジョルジュ・メリエス自身も自動人形を制作していたエピソードがあります。

まったく君の作る人形ときたら、そりゃもう精緻に現実を模倣していて、文字通り生きて、呼吸しているように見えるよ。そしていま、時代は動きの錯覚を欲している。ところが絵を動かす装置はまだ原始的段階だし、写真にしてもいまだその最終目的に供されてはいない。だとすれば、いまこそまさに、からくり劇場には絶好のタイミングじゃないかね。
(スティーヴン・ミルハウザー、『イン・ザ・ペニー・アーケード』「アウグスト・エッシェンブルク」より)

『イン・ザ・ペニー・アーケード』と「ヒューゴの不思議な発明」に出てくる自動人形がジャケ・ドローの人形をモデルにしたものだとわかると、一層興味が鼓舞されます。

現代のロボット(アンドロイド)も興味ありますが、この古い時代の自動人形も動きの妙だけではなく工芸作品としての価値もすごいなと思います。

スティーヴン・ミルハウザーさんの『ナイフ投げ師』~幻想と現実 (2024/8/15 のBLOG)
https://soleil-lune-tokyo.com/millhauser_theknifethrower/

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